みなさんこんにちは!
災害医療大学:医療防災学科です。
医療防災、つまり医療機関における防災の中で有名な物が「災害時対応マニュアル」です。
しかし、災害時対応マニュアルは災害が起きてから数日のことしか書かれていなかったり、
災害時対応マニュアルがあったとしても、「想定外」のことによりマニュアルが機能しないことがありました。
このような現状を打破すべく注目されたものが事業継続計画、通称「BCP」です。
そもそもBCPとは?
BCPの正式名称は「事業継続計画」で、一般企業や行政において作成されています。
不測の事態が起きた時にどのように判断を下し、業務を継続するのか?を書いたものですね。
リスクマネジメントの一環として作成されます。
当然災害時にこれまでの業務をすべて継続することは難しいでしょう。
だからこそ、「この業務は優先するぞ!」というものを決めておき、「優先業務」を維持するために必要な物資の備蓄・調達などを計画し、実行に移します。
つまり、そもそも災害が起きた時に「どのような状態になるのか?」を予測し、考えられた弱点を補うためのものですね!
BCP策定の手順〈簡略版〉
BCPは一回作ったら終わりというものでなく、
作ってから訓練。訓練から改善点を見つけ、もう一度作り直す。というPDCAサイクルを回しながら改善します。
- 方針の決定
- 計画
- 実施および運用
- 教育・訓練の実施
- 点検及び是正処置
- 経営層による見直し
- 1に戻る
BCPは策定をするのも大変ではありますが、訓練、見直しをしなければ意味がありません。
BCPを策定しただけの企業は実災害時にBCPが役に立たなかった例があります。
病院におけるBCPの役割は?
病院においては「アクションカード」というものが作られているところも多く、これがいわゆるマニュアル的な意味をなしてきたと思います。
つまり、BCPに似たようなことはすでにやってきたはずなのです。
病院の優先業務
災害時に病院は何の業務を優先しますか?
当然「患者すべての診療」であり、発災直後から絶え間なく医療を提供することが求められます。
つまり、「病院も被災したから診療中止~~」と言っていられません。
そうならないように被災した際に、自分の病院がどのような状況に置かれるのか?地域においてどのようなニーズが発生するのか?
これだけでなく、変化し続ける医療ニーズにも対応しなければなりません。
こちらの図は病院においてBCPが必要なイメージです。
BCPがないと一番下の破線のように、病院機能の回復が遅く、防ぎえた災害死が発生しやすくなります。
BCPによって被害の程度をおさえ〈減災〉、
早期に対応することができれば1番上の実線のように早期から平常時の病院機能に回復できます。
防ぎえた災害死って何??という方はこちらをご覧ください!
災害対応マニュアル V.S. BCP
ここまで読んだ方は思ったはずです。
「結局BCPってこれまでの災害マニュアルと変わりなくね??」
BCPって言葉に変えていますが、ここまででは災害対策マニュアルとの違いが判りません。
BCPと災害対策マニュアルの差はこの図のようになっています。
いちばん外側の赤枠の範囲がBCP。
右上の黄色枠が従来のマニュアルです。
一目でわかるBCPと災害対策マニュアルの違いは「カバー範囲」と「具体的な対策」ですね。
想定期間の違い
従来のマニュアルは「災害が起きてから数日」については細かく触れられていましたが、そのあとの対応は「状況に応じて判断する」などでぼやかされていませんでしたか?
BCPでは平常時の業務に戻るまで全体を想定して計画を練ります。
図の中の急性期・亜急性期・慢性期というのは発災からの時間経過に応じて変わる災害のフェーズの呼び方です。
災害サイクルは災害時の考え方として重要です。
いつから行動するか?
災害対策マニュアルを策定してから何か変わったことはありますか?
基本的に災害対策マニュアルは「今の状態で災害が起きた時にどうするか?」といったスタンスで書かれています。
BCPは「今の状態で災害が起きたら○○な問題が発生する。だから今からどのような手を打っておくか?」という流れになっています。
つまり、災害対策マニュアルは「災害が起きてからの行動が書かれている」。
BCPは「災害に向けて今のうちに行動することを書いている」。
という違いになります。
具体的な例
概念的なことばっかり言っていてもわかりにくいですね。
2つ例があるのでご紹介します!
対応職員の確保
簡単に言うと災害時に職員がどうするか?という内容ですね。
職場も自分の家も被災している状況で職員もどういう判断をするのか迫られます。
従来のマニュアルの場合
職員は震度6弱以上の地震の際には、病院に参集する。
6弱以上の地震が起きた時を想像してみてください。
家族の安否も確認されていない、道の状態もわからない。でもマニュアル的には6弱以上の地震では病院に行かなければならない。
当然職員は葛藤し、判断は遅れます。
BCPの場合
被災した状況下で考えられる、外部にいる職員の被災や、交通の遮断、家族の反対などによって多くの職員が参集できない、あるいは参集が著しく遅れる可能性を分析し、 そのうえで被災かであっても参集できるように、平常時から個々の職員が病院の宿舎や近隣に居住する、バイクや自転車などの参集手段を確保する、家族への理解を得ておくなどの方策を講じる とともに、 参集した少ない職員での業務の能率的な運用方法を策定し、それが遂行できるように訓練しておく。
「弱みとなる可能性の分析」、「弱点の補強」、そのうえでの「対応法の模索」という3部構成になっています。
備蓄について
発災してから支援物資が見込めるまでの間は自施設の備蓄でどうにか乗り切る必要があります。
皆さんは自分の施設の備蓄がどこにあるのか、災害時に取り出せるのかは確認していますか?
従来のマニュアルの場合
水・食糧は3日分〈リスト付き〉を常に備蓄しておく
3日分って具体的に何人の3日分でしょうか?
災害時に病院にいるのは職員・入院患者だけではありません。
BCPの場合
水・食糧は3日分〈リスト付き〉を常に備蓄しておく その対象が、既存の入院患者のみならず、被災患者やその家族、職員や応援者まで膨れ上がることや、 受水槽が壊れて数時間で水が枯渇してしまう可能性、交通の遮断や津波で孤立して、それらの外部から供給が遅れる可能性を考え、 浄水器を備え、地下水や井戸水が利用できるようにしておく、受水槽が倒れない、給水管が破断しないように補強措置を講じておく、 食料の3日分は最大人数で計算して備蓄しておく。
こちらも「どんな可能性があるか」、「今何を対策するのか」とい形になっています。
BCPとは災害対策マニュアルの強化バージョンというイメージで考えていただくとよいと思います。
そもそもBCPとはなにか、病院におけるBCPの必要性、災害対応マニュアルとBCPの違いをご紹介しましたが、
「あ~、やっぱりBCPあったほうがいいな~」と感じていただけたでしょうか?
BCPを策定する方法や役に立つ文書、おすすめのサービスなどは別にご紹介する予定です!
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